ここでは慢性腎不全(透析患者)について解説したいと思います。
概要
血液透析を受けている患者数は全国で約34万人で、ボリュームゾーンは70〜74歳です。男女比は〜74歳までは男性が若干数多いのですが、75歳を超えてくると女性の方が透析患者数は増加していきます。※1
透析を受けることになった原因疾患では2020年時点で糖尿病性腎症(39.5%)、慢性糸球体腎炎(25.3%)、腎硬化症(12.1%)と、この3つだけで約77%も占めています。※2
※1 ※2 日本透析医学会 わが国の慢性透析療法の現況より
長年に渡る生活習慣病が背景にあることも多く、本人の症状訴え改善以外にも包括的に支えていくことが求められます。
腎臓の働き
腎臓の主な働きは次の3つです。
- 血液をきれいにする
- 各種ホルモンを分泌する
- 尿をつくる
各種ホルモンとは、血圧調整や赤血球の生成、骨の強化に関わるホルモンを分泌することです。
また、老廃物を含む血液は、糸球体から尿細管に濾過され、老廃物を含んだものが原尿となります。そして、原尿に含まれる水分や栄養素のほとんどは尿細管で再吸収されて体に戻り、不要なものだけ尿として排出されます。
腎機能の低下による諸症状
腎機能が50%まで低下しても症状は見られず、正常時の30%以下になると不快症状がみられていきます。ただし、10〜20%程度になっても症状を自覚しない人もいますが、自覚する前に心不全や脳卒中を発症してしまうこともあります。最初に見られることが多いのは腎機能が50%以下となったときに夜中に何度もトイレに起きるようになる症状です。
- だるさ
- 食欲不振
- 吐き気
- 手足の浮腫
- 貧血
- 顔色の悪さ
- 夜中に何度もトイレに起きる
末期腎不全になると尿毒症となり、放置すると命に関わるため腎臓移植や透析治療が必須となります。
慢性腎臓病と慢性腎不全
慢性腎臓病とは、腎機能の低下が一定レベル以下のまま3ヶ月以上持続している状態のことです。2002年に米国腎臓財団から「慢性腎臓病」(Chronic Kidney Disease: CKD)という概念が提唱されています。これは腎機能障害をより分かりやすく、早期に発見するためです。慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)は、慢性に経過するすべての腎臓病を指します。
慢性腎不全は、慢性腎臓病(CKD)が進行することによって発症します。腎臓のろ過能力が正常時の30%以下となって、体内の正常な環境を維持できない状態のことをいい、腎機能の回復は見込めず、高度な腎機能低下の場合、多くは末期腎不全(腎臓のろ過能力が15%未満)へと進行して生命に危険をきたします。そして最終的には、透析や腎移植をする必要が出てきます
鑑別
腎臓の障害を示す所見としては、
- タンパク尿や血尿などの尿異常
- 腎萎縮や多発性嚢胞腎などの画像所見の異常
- 腎機能障害を示す血液検査の異常
- 腎病理検査による組織の異常所見
があります。
僕たちマッサージ師や鍼灸師にとっては腎臓の所見を見る機会はありません。
ただ、透析を受けることになった原因疾患が糖尿病性腎症が約4割もあることから、糖尿病を患っている方の訪問介入時はよく様子を観察し、訴えを日々メモしていくなどして迅速に対応できるよう準備をしていくことが望ましいと思います。
上記諸症状にもある通り、最初に見られていくのは夜間の頻尿です。こういった方はすでに医療機関で定期的に病状を診てもらっていると思いますが、日々介入している僕たち自身も症状の変化に気づいて、看護師さんやケアマネ、医師への報告などを行いましょう。
血液透析と腹膜透析
通常、高齢者で透析を受けているとなったら血液透析のことを指します。
血液透析とは
患者さんの腕から取り出した血液と、透析装置から送り込まれる透析液が透析膜で仕切られた装置(ダイアライザー)を通過し、老廃物や余分な水分が除去されていきます。
具体的には次のとおりです。
- 血液を取り出すための針と、戻すための針を腕に刺す
- 4時間程度そのままにしておく
- 針をはずす。週3回程度通院して受ける。
血液透析をされている方は腕にシャントを作る手術をされています。これは血液を取り出しやすくするために血管を太くするためのものです。そのため、側臥位などでシャントがある部分を圧迫したり、人工血管部分を揉み込むといった施術は行わないように注意しましょう。
腹膜透析とは
腹腔内に透析液を入れ、血液浄化を進める方法が腹膜透析です。自身のお腹にカテーテルを入れて、透析液を入れます。腹膜を通してじわじわと血液の汚れを移して行くのですが、限られた時間で一気に汚れを取り除く血液透析と比べて自然な仕組みに近く、腎臓の残存機能も長く保たれます。1回の交換に要する時間は約15分程度で、1日に4回程度繰り返します。
血液透析について覚えておきたいこと
少なくとも下記事項については覚えておきましょう。
週3回、4時間ずつ通院している
多くの場合は昼間に行われています。経験上、いままで介入してきた透析患者さんは全員午前〜昼過ぎでした。
尿はほとんど出なくなる
腎機能の低下が進行すると尿量が減ります。血液透析を実施していくと機能低下を起こしていくため尿量は減っていきます。
水分と塩分の制限は厳格に守らないといけない
尿が出なくなる分、透析間は体に水分が溜まりやすくなります。そのため、摂取する水分や塩分量には厳しく制限していきます。
透析当日は疲労感・虚脱感が強くみられることが多い
血液の体外循環(透析)による非生理的ストレスで、エネルギー消費を伴う疲労感を起こしていることが多いです。
ドライウェイトが基準となる
ドライウェイトとは、体に余分な水分が溜まっていないときの体重のことをいいます。1回の透析で取り除ける水分量には限りがあるため、下記体重管理を徹底します。
透析の間隔が中1日・・・ドライウェイト(kg)✕ 3%以内
透析の間隔が中2日・・・ドライウェイト(kg)✕ 5%以内
もしも体重が増えすぎた場合に、無理にドライウェイトまで戻そうとすると、血圧が下がりすぎてめまいや脱力感が強く出たりするので除水しきれない場合があります。
そうして血液量が増えすぎた状態が続くことで心臓や肺、血管などに負担がかかり心不全などの合併症リスクが高まります。
予後
データは古いのですが、「わが国の慢性透析療法の現況(2005年12月31日現在)」では透析患者の平均余命は50歳の男性で14.55年、50歳の女性で16.74年、60歳の男性で9.87年、60歳の女性で11.31年、70歳の男性で6.24年、70歳の女性で7.11年です。
透析患者さんの平均余命は、一般人口の平均余命と比べると概ね半分程度で、透析患者の平均余命と一般人口の平均余命を比べると、それぞれの年齢で半分以下であることがわかります。ただし現在は透析医療の進歩により、余命はもう少し長いと考えられます。
また、わが国の慢性透析療法の現況(2020年12月31日現在)において、死亡原因として多い順に心不全(22.4%)、感染症(21.5%)、悪性腫瘍(9%)、悪液質/尿毒症/老衰等(6.2%)、脳血管障害(5.9%)です。
心不全、脳血管障害、心筋梗塞を併せた「心血管死」の割合は32%となるため、それらの徴候を見逃さないよう毎回の施術時にはよく様子を観察しながら介入することとなります。
どのような症状が予測されるか
透析をしているから訪問マッサージを、、、とはなりません。
- 透析による不快症状
- 透析に至った原疾患
- 透析の結果起きた合併症
これらについてなんとか緩和したい、改善したいという背景で訪問マッサージの介入が検討されると思います。
多くは、ボリュームゾーンである70歳以降の患者さんへの介入が多くなると思われますので、このあたりを加味して考えていきます。
- 透析後の全身倦怠感
- 腎性貧血による諸症状(立ちくらみ、動悸、疲労感など)
- 便秘
- 肺水腫(息切れ)
- 透析アミロイド症(首や肩に痛み・痺れ・麻痺)
- 筋肉のツリ、こわばり
- 手根管症候群(アミロイド物質が手首部の腱や骨、関節などに沈着し神経を圧迫するため)
- 末梢動脈疾患(PAD)
- 透析時の同一姿勢での腰背部痛
- 臥床が続くことでの関節可動域制限
- 低活動性による筋力低下、フレイル
透析患者において積極的に体を動かす方は少ないので、日に日に動脈硬化などのリスクが高まっていきます。これは死亡原因をみても明らかです。低活動・同一姿勢といった要素を加味しながら施術プランを立てていきます。
徒手検査
疼痛部位など主症状を訴える部位の組織特定は必須です。
その上で、寝たきりを基準として固さがみられやすい部分をチェックしていきます。
また、浮腫の程度を記録して日々の体調管理にあてても良いと思います。具体的には下腿などの周径をメジャーで測り、メモをしていきます。
数字で管理をしていくメリットは、客観的要素のみが判断基準とできるので評価が主観に左右されない点です。施術後の成果目安にも繋がるのでおすすめです。
マッサージ・ストレッチ・鍼灸・機能訓練
鍼灸師、マッサージ師がどう介入していくのかを考えてみたいと思います。
QOL向上のためあれこれやってみたくなると思いますが、透析患者さんがマッサージや鍼灸の介入をさせているときは明確に改善したい主症状があるはずです。
介入=主症状が緩和される。まずはこれを目指して接していくと良いと思います。
マッサージ
全身倦怠感、虚脱感など全身性の症状が強い場合にはなるべく多くの筋・筋膜を緩めていきましょう。同一姿勢が続くなどして頸肩部や腰背部に疼痛が存在している場合には疼痛組織の特定を行い、アプローチします。
透析患者さんの多くは血管が弱くなっていることや、抗凝固薬を服用されていることから強刺激によって炎症が起きないよう注意します。
滅多にありませんが、透析日当日に施術を依頼された際には全身状態の確認を行いながら、上記の点に細心の注意を払う必要があります。
また、糖尿病性腎症を背景としている透析患者さんが多いため、末梢動脈疾患(PAD)リスクも考えなくてはいけません。下腿〜足指の冷感、痺れ、歩行時の疼痛、皮膚色なども目視しつつ、下腿血流促進を目的にフットケアの実施も行っていきます。
関節可動域運動
関節可動域運動では他動が主となると思います。これは、本人の疲労感強く、疲れることはしたくない、という背景があることが多いためです。
他動での関節可動域運動は、数回動かしてあげるだけでは刺激が少なすぎます。大きくゆっくりと最大可動域まで他動で動かし、20回程度を目安に実施すると緩みが出てきやすいです。
高齢の方ほど低活動性による廃用も考えられます。
これらを中心に優先順位を決めてアプローチしていきますが、どこの可動域制限が、どう日常生活動作に影響しているのか?これを見極めることや、自身の考えをしっかりと患者さんに伝えていくことも必要です。
なぜなら主症状の緩和を期待しているのに、それ以外の部分を触ったり動かしていることに不満をもつ患者さんは意外と多いのです。
鍼灸
抗凝固薬を使われているので出血リスクを考え深刺を控えたり、糖尿病性腎症が背景にあることが多くPADリスクを考え灸刺激でとくに下腿に傷ができないよう施術には十分な注意が必要です。
そのため、経絡治療や筋膜への刺激といった浅刺において、全身症状の改善を図るケースが増えます。
透析患者さんは、透析の影響により血圧の乱高下が常態化していますし、血液の体外循環(透析)による非生理的ストレスで、エネルギー消費を伴う疲労感を起こしていることが多いです。
ですので慢性疲労症候群に陥っていることが予測できるため、自律神経の安定化を図り十分な休息がとれるよう介入し、活力を取り戻すアプローチも良いかと思います。
機能訓練
運動療法の実施は透析患者さんにおいては生命予後や健康寿命に大きく関わる要素となります。
活動量/運動量と疲労感については透析日、非透析日ともに毎日外出し30分以上歩行する患者さんは有意に疲労感が低かったとされています。※1
透析患者さんの高齢化が進んでいることもあり、疲労感が増し慢性疲労となり活力が低下すると、食事摂取量低下→栄養障害→筋力・筋肉量低下→易疲労と悪循環となり、結果としてフレイル、廃用と繋がっていきます。※2
※1 ※2 外来血液透析患者の疲労感と種々の要因より
しかし安易に機能訓練の実施はできません。
なぜなら、訪問マッサージ師/鍼灸師の介入である以上、求められている要素が主症状の緩和のためです。
運動を求めている患者さんは非常にまれです。
介入しつつ1週間の生活動作、運動量を把握し、どれくらいの運動ボリュームが目の前の患者さんにとって必要なのかをよく理解していただいた上で機能訓練実施が望ましいと思います。
機能訓練は、本人も毎日実施できて疲労感があまり感じない程度のものをプログラムし、協力して行っていくほうが良い結果に繋がると思います。
リハビリの介入について
上記のことから、理学療法士等によるリハビリ介入は積極的に促してよいと考えています。リハビリ介入しているとそれなりに負担のかかる内容もあることから、患者さん自身がめげそうになっていることもあるので、リハビリ拒否とならないよう鍼灸師/マッサージ師もサポートをしていきます。
看護師、ヘルパー、ご家族さんなどと協力して屋内外を数分〜30分歩くことを習慣化するなど、運動量の確保を考えます。
なぜなら運動量の確保は生命予後・健康寿命に大きく関わるからです。
透析患者さんは心不全や脳卒中などの「心血管死」のリスクを常に抱えています。その割合は32%にものぼるため、1日でも早く日常生活の見直しができると、良い結果に結びついていくと考えられます。
何にせよ1週間の中での運動に取り組んでいるトータルの時間数を把握し、運動不足に陥らないようコントロールすることが重要で、本人のみならず、家族、ケアマネ、介護士の方々と協力してケアに取り組むべき疾患です。
参考資料
- 外来血液透析患者の疲労感と種々の要因
- わが国の慢性透析療法の現況(2020年12月31日現在)
- わが国の慢性透析療法の現況(2005年12月31日現在)
- 名医が答える! 腎臓病 治療大全
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