ここではパーキンソン病について解説をしたいと思います。
概要
パーキンソン病は中高年期に発症し、手足のふるえや体のこわばりを特徴とする疾患です。
男性よりも女性の方が約2倍ほど有病率が高く、高齢社会に伴い増加傾向にあります。
黒質のドパミン神経細胞の変性を主とする進行性の神経変性疾患ですが、病気自体は緩やかに進行します。
黒質の変性は、基底核の運動統御機構の破綻を生じて振戦、筋固縮、無動・寡動(かどう)、姿勢反射障害を呈するパーキンソニズム(パーキンソン症候群)と呼ばれる運動障害を発症していきます。
症状、臨床所見
50〜60歳での初発が多く見られ、症状はゆっくりと進行していきます。
- 一側性の手足のふるえ
- 歩行時の足の引きずり
症状の多くは次のように進行していきます。
- 一側性の振戦、筋固縮、動作緩慢
↓ - 小刻み歩行、前傾姿勢など両側性障害
筋固縮は他動で関節可動域運動を行う際に歯車様抵抗としてよくみられます。
初めて施術を担当するときはビックリするかもしれませんが、ゆっくりと落ち着いて、丁寧に動かしてあげましょう。
また、安静時(仰臥位など)に振戦がみられることもありますが個人差が多く見られ、振戦というよりも「ビクッビクッ」と大きくふるえる時もあります。
仮面様顔貌によって表情の変化に乏しい方や、四肢循環障害による冷え症、自律神経症状や抑うつ、不眠などの精神症状を伴うこともあるため、本人や家族にどのような症状がみられるのかをよくヒアリングする必要があります。
寡動(かどう):動作緩慢で、動作の初動が遅くなります。筋緊張も亢進しており筋固縮の状態です。
無動(むどう):寡動が亢進していくと無動になります。
鑑別
パーキンソン病が疑われた場合は、画像診断、血液検査、尿検査、薬剤反応検査等を行い、厚生労働省が作成した診断基準を満たしている場合はパーキンソン病と診断されます。
経験上、ケアマネジャーや患者本人・家族から「パーキンソン病(や症候群)を患っている」と情報開示があってから介入するケースがほとんどです。
ただし、パーキンソン病という診断を受けてから何年経過しているかまではこちらから聞かないと教えてもらえないことがあります。
個人差はありますが初発から3〜5年程度はL-ドパをはじめとする治療薬の服用が著効するため、症状のコントロールができることから身体的問題点があまり見られないように思います。
しかし、それ以降は徐々に症状の進行がみられ薬の効きが悪くなるなどして身体的にも精神的にも不快な症状に悩まされることがあります。
多くは、この時点からの介入となるため、介入時の年齢や本人の治療への意欲等をよく見ながら慎重にプランを立てていく必要があります。
予後
一般的には振戦が主な症状だと進行は遅く、動作緩慢が主な症状だと進行が早いと言われています。
神経内科にしっかりと通い、適切な治療を行えば10年程度は通常通りの生活が可能です。
そして中高年期の初発がほとんどのため、生命予後自体は悪くありません。
僕自身が見てきたケースだと次のような流れが多くありました。
- パーキンソン病となる
↓ - 筋固縮が亢進する
↓ - 典型的な前かがみ姿勢となる
↓ - 頸肩部の強い可動域制限
↓ - 症状が進行し臥床が続く
↓ - 誤嚥性肺炎で亡くなる
治療介入として予後に影響することが科学的に証明されているものはありませんが、パーキンソン病の進行とともにどこの機能障害が発生するかは予測がつくので、上記の流れを辿らせないように治療内容を工夫していく必要があります。
徒手検査
前かがみ姿勢が長く続くことでどこに負担がかかるのか?を基本として考えてよいと思います。
可動域制限や負荷のかかる部位は次のとおりです
- 頸部伸展(頸部伸筋群や胸鎖乳突筋の緊張)
- 胸腰椎後弯(呼吸機能不全、体幹回旋不全、体幹伸筋群緊張や大胸筋短縮)
- 肘関節屈曲(上腕二頭筋や前腕筋群の短縮)
- 股関節、膝関節屈曲(腸腰筋、ハムストリングスの短縮)
- 足関節背屈(腓腹筋短縮により膝関節伸展制限や尖足)
この内、腰〜足関節の機能不全が続くと歩行や起立動作への影響が強くなることが予想されます。
上半身の機能不全を見過ごしていくと、着替えに時間がかかるようになったり、最終的には誤嚥性肺炎などの致命的な合併症に繋がると予測できます。
これらを想定した上で、介入時には主訴とは別にどこから優先して施術を行なっていくかを考えていくべきと思います。
症状に対してどうアプローチするか
パーキンソン病では2段階に考えると治療内容を組み立てやすくなります。
- 一次的機能障害・・・安静時振戦、筋固縮、寡動、姿勢反射障害
- 二次的機能障害・・・一次性機能障害による低活動でおきた廃用症候群部分
※廃用症候群:関節可動域制限や筋力低下、意欲や活動性低下、体力低下など
4大症状として振戦、筋固縮、無動(寡動)、姿勢反射障害があります。
鍼灸マッサージ師が介入して改善の可能性があるのは、パーキンソン病の二次的機能障害に対してのみです。
マッサージや鍼灸でどのようにアプローチをしていくかを考えてみたいと思います。
マッサージ・ストレッチ・鍼灸・機能訓練
上記でも述べたとおり、関節可動域制限は必発すると思ってもよいでしょう。
可動域制限や負荷のかかる部位は次のとおりです
- 頸部伸展(頸部伸筋群や胸鎖乳突筋の緊張)
- 胸腰椎後弯(呼吸機能不全、体幹回旋不全、体幹伸筋群緊張や大胸筋短縮)
- 肘関節屈曲(上腕二頭筋や前腕筋群の短縮)
- 股関節、膝関節屈曲(腸腰筋、ハムストリングスの短縮)
- 足関節背屈(腓腹筋短縮により膝関節伸展制限や尖足)
マッサージでは筋緊張亢進部位を中心にアプローチを行なったり、ストレッチでは前かがみ姿勢によって短縮している筋を中心にアプローチしていきます。
なんとなく固いところをマッサージするのではなく、例えば頸部伸筋群なら起始停止をしっかりと狙って触っていくべきです。
関節可動域運動では他動が主となると思います。
その際には、数回動かしてあげるだけでは刺激が少なすぎます。大きくゆっくりと最大可動域まで他動で動かし、20回程度を目安に実施すると緩みが出てきやすいです。
動作緩慢が見られる方でも、初動に時間がかかるだけで術者の指示はしっかりと理解していることが多いです。
体位変換を指示した際に、ゆっくりと動いているのをサポートしようと術者がやりやすいように動かしてしまう方がいますが、これは厳禁です。
急に動かされた患者は驚き緊張肢位になりますし、術者の粗暴な扱いに信頼感を失っていきます。
他動で動かす際にはあくまでも「患者本人が動かせられない部分を補填するだけ」くらいでちょうど良いと思います。
鍼灸治療では、選択の幅が広く取れます。
筋緊張部位を攻めても良いでしょうし、パーキンソン病では自律神経障害や睡眠障害を伴っていることも多く、本人は気が付かなくとも慢性疲労症候群に陥っているケースもみられます。
自律神経へのアプローチを行い副交感神経を十分に活性化した上で、筋緊張部位へのアプローチを開始するなど効果的な手段が取れます。
僕の経験上パーキンソン病の方は鍼灸治療を嫌がる方が多かったため、細い鍼を用意して軽微なものからはじめるなど工夫が必要かもしれません。
機能訓練は積極的に行うべきです。
実際、日本神経学会ではパーキンソン病に対する運動療法のエビデンスレベルが「A」となっており、身体機能・QOL・筋力・バランス・歩行速度の改善に有効であるとされています。
そのため運動習慣の形成が肝となっていきます。
理学療法士や看護師の介入があって体を動かす機会が得られていても、貴重な時間ではありますが1週間で考えると運動実施時間は少ないケースがほとんどです。
未介入の場合は恐らく理由があってのことです。
それとなく聞き出してみて、代案を一緒に考えてみてもよいと思います。
必要ならケアマネジャーに理由を聞いてみましょう。
自律神経障害が背景にあり意欲性が低下している場合は、あまり積極的な提案は承諾が得られにくいです。
施術を行なっていく中でいくらか患者本人の余裕が生まれたときに提案をするなどタイミングも重要です。
あはきは特定医療費(指定難病)助成の対象外
はり、きゅう、あん摩マッサージの治療費用は特定医療費(指定難病)助成の対象外です。
そのため、お持ちの健康保険の負担割合が適用されます。
特定医療費(指定難病)受給者証を見せてくださる方がいらっしゃいますが、あはきは対象外のためご案内には注意しましょう。
参考資料
- 運動器疾患の「なぜ?」がわかる臨床解剖学
- 運動機能障害の「なぜ?」がわかる評価戦略
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