疾患別アプローチ

大腿骨頸部骨折についてのアプローチ

股関節の内側にある頸部と呼ばれる部分が骨折することです。

2030年には30万人まで倍増すると予測されています。

大腿骨は頸部で曲がっています。大腿骨で体を支えていますが、転倒や転落時に外力に集中し、骨粗鬆症、筋力やバランス機能低下している高齢者に起こりやすい骨折です。

骨の表面には折れた骨をくっつけるのに重要な外骨膜があるのですが、大腿骨頸部には外骨膜がないので、骨がうまくくっつかず完全に治らないままの偽関節という状態になってしまうことがあります。

症状

・強い痛み

・大腿骨を骨折すると足の付け根に痛みを感じて立ったり歩いたりすることが出来ない

・仰向けの状態から膝を立てる、足を持ち上げることが出来ない

①骨頭を包む関節包の中にある大腿骨の骨折

何日か前から足の付け根が痛くなり、ある時から急に立てなくなってしまう症状が出ます。血液循環が悪いために骨癒合が得られにくい、関節内のため内出血も少ないと言われています。内側骨折は骨頭壊死(血液障害で後程骨が潰れてしまう)の合併症にも注意が必要です。完全な骨折や転位(ズレ)のある骨折では、骨融合が期待できないため、人工の骨頭に置換する手術が行われます。

②大腿骨頸部外側骨折=転子部骨折や転子下骨折(膝側の関節外で折れる場合)

関節包の外にある大腿骨の骨折で転倒・転落で発生します。骨癒合を得やすい、受傷時外力強く内出血もして全身に影響が出やすい骨折です。

検査・診断

・転倒・立てない時、骨折を疑う時はX線(レントゲン)撮影をします。

・X線では分かりづらい場合、CTやMRIで診断するようです。(歩行可能)

(受傷場所は屋内が約70% 、80歳以上の高齢者では屋内で受傷する割合が85% )

※居室や廊下での受傷が多く、受傷原因は立った高さからの転倒が74%になります 。

(他にもトイレ、台所、玄関、浴室での受傷も多いようです)

転倒理由として・・・

「身体がふらついた」

「滑った」

「平地でつまずいた」

「段差、コードにつまずいた」

予防

大腿骨近位部骨折に限らず、高齢者の骨折の90% が『転倒』をきっかけに発生しています。

側方からの転倒のようなダイレクトな大転子部への衝撃よりも、膝から接地する転倒の方が大腿骨頸部骨折に発展しやすいと言われています。

→そこで危険なのが脳梗塞や椎間板ヘルニアなどのさまざまな疾患で大腿四頭筋麻痺による『膝折れ』が危険と言われています。

・まず転倒しない!

・筋力低下や視力障害などの改善も必要

・折れにくい骨を作る=骨粗鬆症の予防・治療=食事管理・運動も行う

・転倒防止の環境作り=バリアフリーの環境、階段、廊下への手すりの整備、安定した靴と杖の使用、浴室には滑り止めのマットを使用

骨折が起きてしまうと日常姿勢に支障をきたす可能性が!!

・元の体の状態に戻すことが難しい

・介護になる

・活動量減少

・意欲減退

・認知症になるかも

合併症

肺炎・尿路感染症・褥瘡・廃用症候群・認知症

強い痛みを生じるため、体の動きが制限され、長期臥床が長くなるとこれらの合併症の危険性が高くなると言われています。

手術方法

骨接合術

骨のズレが少ない場所に行なわれ、骨折した部分を金属などの器具で固定して骨をくっつけ、体への負担少ないですが、骨がうまくくっつかず偽関節と呼ばれる状態になる事も多いそうです。また、骨頭壊死や遅発性骨頭陥没という合併症を生じる危険性があると言われています。

人工骨頭置換術

骨折した頸部から骨頭までを切除してそこを人工物で置き換える手術になります。手術侵襲がやや大きく、手術時間長く、輸血を要することが多く、術後に感染を生じる危険性高いと言われています。関節脱臼が術後経過中に生じたら病院に受診して治してもらわないといけないというリスクがあります。

予後

生存率は1年以内の死亡率は12.8%、1年生存率が87%、3年生存率が75%

骨折後は後遺症として力が入りにくくなる、筋力低下から歩行が困難になる事もあります。

また、認知症上の発症、心臓疾患にもつながる事もあります。そうなると看護や介護されている方たちにも、多大な負担になると考えられます。座位保持や起立、歩行動作の獲得を含めてマッサージで痛みを緩和し、動きやすくなるように施術を行う必要があります。

術後は股関節周囲の筋肉、大腿部と下腿の筋力が落ちてしまい、股関節の可動域も制限される可能性が高いです。股関節の可動域を広げる運動と、下肢の筋力トレーニングを行う必要があります。

治癒後は日常生活レベルが1段階下がると言われています。

大腿骨頚部骨折のリハビリ(一般的なスケジュール)

・手術後1〜2日:臥床訓練開始(足関節の底屈・背屈運動)
・手術後3〜5日:車椅子移動、歩行訓練開始
・手術後10〜15日:杖歩行訓練開始
・手術後15〜25日:T字杖の使用で退院
・退院後2〜3ヶ月:リハビリ通院
・退院後半年〜1年ごとの定期検診

リハビリは受傷者の術後の経過に合わせて行われ、筋力や運動機能の低下を予防するためには、術後はできるだけ早くベッドの上で起き上がれるようにすることが大事になってきます。

ベッドの上に起き上がれるようになれば車椅子での移動を開始しますが、この時点で術部には腫れがあり痛みも伴います。手術から5〜7日が経過すると術部の腫れが治まり痛みも緩和されるので、平行棒を利用した立ち上がりや歩行の訓練、硬化した関節の動きを取り戻す運動などを行います。平行棒を用いた歩行、歩行器や杖歩行の訓練を行います。骨折前の歩行機能まで回復出来る割合は40%〜60%と言われています。

人工股関節置換術の術式には、切開する部位によって前方アプローチ、前外側アプローチなど複数の術式があります。

前方アプローチ
(中殿筋と大腿筋膜張筋の筋間を切開)
伸展・内転・外旋の複合動作
(骨頭が前方に脱臼しやすい)
後方アプローチ
(大殿筋、梨状筋、深層外旋6筋を切開)
屈曲・内転・内旋の複合動作
(骨頭が後方に脱臼しやすい)
禁忌動作!(脱臼を起こす動作)
  1. 和式の畳生活を勧める。
  2. 靴ひもを結ぶときはしゃがむ。
  3. 椅子は座面の低いものを使用する。

マッサージ・鍼灸・機能訓練(上記の禁忌動作に注意しながら行う)

マッサージ(大腿骨骨折後のリハビリでの痛み緩和)

大腿筋膜張筋、大臀筋、中臀筋、大腿四頭筋、腸脛靭帯、長内転筋、恥骨筋、ハムストリング、前脛骨筋、ふくらはぎ、足裏のマッサージを行います。

鍼灸(大腿骨骨折後のリハビリでの痛み緩和)

軟部組織の痛みの場合は内転筋、腸脛靭帯、大腿四頭筋、大腿筋膜張筋付近に痛みが出やすいケースが多いのでその周囲にある経穴を選穴します。

環跳、陽陵泉、風市、居髎、丘墟など

機能訓練(退院後のリハビリで筋力トレーニング)

段階的に負荷・強度を上げていくのがポイントです!

痛みが出ずきつくなくちょうどいいトレーニングを行ってください!

寝て行う→座って行う→立って行う

寝て行うトレーニング

・セッティング

仰向けになり、患側の膝下にタオルを入れ、そのタオルを下に押しつぶすように大腿四頭筋に力を入れてもらう(30秒)→大腿四頭筋のトレーニング

・内転トレーニング

仰向けになり、太ももの内側にタオルを挟み、それを両足で挟み潰すように動かします(10回)

・腿上げ

仰向けになり、膝を曲げ太ももが胸に当たるように上げていきます(10回)

・外転トレーニング

横向きになり、膝関節・股関節を伸ばしたまま足を上に上げ下げします(10回)

座って行うトレーニング

・内転トレーニング

座位になり、太ももの内側にタオルを挟み、それを両足で挟み潰すように動かします(10回)

・腿上げ

座位になり、膝を曲げ太ももが胸に当たるように上げていきます(10回)

・膝伸ばし

座位になり、膝を前にゆっくり伸ばしていき、ゆっくり膝を曲げていきます(10回)

・つま先あげ

座位になり、両足を少し前に置き、踵はつけたままつま先を上げていきます(10回)

・踵あげ

座位になり、つま先をつけたまま、踵を上げていきます(10回)

立って行うトレーニング

・腿上げ

テーブル・椅子につかまり、片足ずつゆっくり太ももを上げてゆっくり下ろしていきます。※上げられる範囲で行うのがポイントです(10回)

・膝曲げ

立って手すりにつかまり、膝を後ろに曲げ、踵がお尻につくようなイメージでゆっくり曲げていきます(10回)

・スクワット

肩幅くらいに足を広げ、お尻を後ろに突き出しながらゆっくり膝を曲げていきます。膝がつま先より前に出ないように行うのがポイントです。出来る限りゆっくり行います(10回)

参考資料 

大腿骨頸部骨折/転子部骨折診療ガイドライン

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この記事を書いた人

とらこ
・鍼灸マッサージ師
(3児の母 トライアスロンに挑戦したいアラフォー)