ここでは変形性膝関節症(大腿脛骨関節)について[あん摩マッサージ指圧師][鍼灸師]が行う治療アプローチについて解説していきます。
変形性膝関節症とは
変形性膝関節症を簡単に言うと、関節軟骨が磨り減って炎症が起き、膝関節が変形した状態のことを言います。
そもそも膝関節は次の2つの関節から構成されます。
- 大腿脛骨関節
- 膝蓋大腿関節
このうち変形性膝関節症とは「①大腿脛骨関節」の変形を指します。
変形性膝関節症を患っているほとんどの方が内側の軟骨が摩耗していき、進行すると徐々にO脚となっていくこととなります。
- 高齢者
- 肥満
- 運動不足(筋力低下)
この3つが重なると変形性膝関節症のリスクは高まります。
変形性膝関節症の治療で依頼が来ることは少ない
2005年に東京大学医学部の研究グループが行った疫学調査では中高年の膝痛患者数は約2400万人と推測されているようです。
僕個人の経験的にも、訪問現場では殆どの患者さんに膝変形が認められておりますので介護保険利用者(=訪問治療の対象者)では必発していると言っても過言ではないかもしれません。
しかし「変形性膝関節症だから」という理由で依頼が来ることは少ないです。
ここで押さえておきたい4つの経過があります。
- 痛みで日常生活動作に支障が出始めている段階
- 膝痛治療で整形外科受診がベースとなっている段階
- 改善せず長期化し、他疾患も併発していく段階
- 通院が難しくなり、膝の痛みも依然として続くため施術者に来てもらうかどうか検討する段階
この④の段階になって初めて僕たち訪問マッサージ/鍼灸師に声がかかるわけです。
①とは
そもそも膝は変形しているけど強い痛みがない場合や、痛みがあって日常生活に支障が出始めている場合でも少し休めば無痛となるため、そうなると患者本人も「困りごと」として訴えませんので、訪問マッサージ/鍼灸まで行き着きません。
②とは
そして、実際に痛みが出続けたとしても整形外科の受診がファーストチョイスとなることが非常に多いと思われます。
レントゲン(X線)を撮り、変形性膝関節症の進行度を確認した後、整形外科の通院が始まるとより訪問マッサージ/鍼灸は遠のきます。
③とは
ヒアルロン注射や通院による理学療法等で痛みが改善するケースもありますが、通院頻度が少なかったり、生活環境があまり改善出来ていないと長期化していきます。
高齢者・肥満・運動不足が背景にあるので、糖尿病や腰痛など他疾患も徐々に頭角を現します。
④とは
そのうちに通院自体にリスクが生じてくると生活援助等が徐々に介入されはじめ、ご自宅で治療を(リハビリやマッサージ)検討していくこととなります。
膝の痛みで依頼が来る場合、かなり進行しているケースが多い
変形性膝関節症には大きく分けて前期・初期・中期・末期と段階があります。
- 前期~初期:立ち上がり、歩き始めに膝が痛む(休めば痛みがとれる)
- 中期(進行期):歩くと膝が痛み、正座、階段昇降が困難
- 末期:変形が目立ち、完全伸展が出来ず歩行も困難(日常生活が不自由)
このうち中期~末期の段階において介入となることが多いため、現段階の疼痛の理由と、治療方針をしっかりと患者本人や家族へ説明しておく必要があります。
これは治療内容に痛くとも多少動かす段階があるため、「痛み=悪」と考えている方ほど一気に離反へ繋がってしまい治療そのものの継続が困難になってしまうことが多々あるためです。
次に疼痛の原因を考えてみたいと思います。
なぜ疼痛が発生するのか
痛みが発生する説明において、「関節軟骨がすり減って骨がぶつかるから痛い」とされる場合がありますが、これは違います。
軟骨にも軟骨直下の骨にも神経が存在しないため、これらがぶつかりあっても痛みを感じることはありません。
変形性膝関節症の痛みの多くは、滑膜炎です。
まず関節軟骨や半月板が磨り減ったことで削れた摩耗粉が関節包内にある滑膜を刺激します。
すると、摩耗粉が異物と判断されて免疫反応が起き、滑膜から炎症性サイトカインが分泌されます。
この炎症性サイトカインは本来ウイルスや細菌に対して攻撃し撃退するための重要な物質なのですが、摩耗粉に対して作用することで炎症が発生し、痛みを患者本人が自覚することとなります。
炎症が発生し、膝に水が溜まる
上記の疼痛発生のメカニズムよって滑膜から炎症性サイトカインが分泌されます。
その炎症反応の際に滑液を過剰に分泌し、関節内に水が溜っていく(関節水腫)こととなります。
変形性膝関節症(大腿脛骨関節)のほとんどは内側の軟骨が摩耗してくためO脚へと進行していきます。
O脚のことを内反変形と言います。
この内反変形を進行させる主な要因としてラテラルスラストがあります。
大腿脛骨関節では完全伸展位で側方の安定性が高まるため、膝の伸展制限が生じている状態では側副靭帯の適切な緊張が得られず不安定性(膝の側方動揺)が発生します。
完全伸展が出来ずに歩行を続けると、変形や炎症を加速させてしまう原因となります。
そのため、変形性膝関節症では伸展・屈曲ともに可動域制限が起こりますが、症状改善に向けて大切なポイントは伸展制限の改善です。
治療の原則は以下の3つです。
- 炎症コントロール
- 筋力強化
- 伸展可動域制限の改善
では、順番に治療のポイントを考えていきたいと思います。
炎症をコントロールする
膝関節に強い炎症(熱感・関節水腫・疼痛)が見られる場合の対応は以下の3つです。
- 歩行補助具(歩行器や杖など)で免荷を図る
- 安静にする
- ステロイド注射、抗炎症薬(鎮痛薬)の頓服
強い炎症、強い痛みの時にはまず対症療法で炎症をある程度落ち着かせることが重要です。
時間経過によっても炎症は落ち着いてきますが、その後も長期間に渡って軽度の炎症、疼痛は残存することが多いです。
そのため、次の3つの事実を患者さんに理解してもらう必要があります。
- 安静にしていても軽度の炎症・疼痛は残存することが多い
- 安静を続けると変形や痛みの原因となっている筋力不足、可動域制限は進行する
- その状態でまた膝を使うと、更にまた炎症・疼痛が発生する
以下、1~3を繰り返して強い変形になっていく
これを食い止めていくには、軽度の炎症・疼痛をある程度許容したまま筋力強化・可動域拡大を実施していくこととなります。
「痛み=悪」という図式となっている患者さんや家族は意外と多いので、マッサージや運動指導の結果炎症が再発すると離反に繋がるため病態や痛みの原因を理解してもらう試みは必須です。
軽度の炎症は筋収縮で抑える
強い炎症は安静が第一です。
しかし、軽度の炎症となったら治療を始める絶好の機会となります。
これには自動運動による筋収縮では抗炎症物質(マイオサイトカイン)が分泌されることが関係しています。
このマイオサイトカインには炎症を抑制する作用があり、筋肉が収縮する(=自動運動)ことで分泌される特徴があります。
そのため、痛みがあまり出ない範囲でウォーキングなどの有酸素運動や、ベッド際での機能訓練などが有効となります。
最初のうちは下肢を徒手抵抗運動で慣らしていき、徐々に室内や廊下歩行を行っていくとよいと思います。
歩行にどうしても抵抗感があるようなら、手すりに捕まってその場で足踏み3分間なども有効です。
筋力強化
ラテラルスラストによる膝関節の側方動揺が原因で変形や疼痛に繋がっていきますのでラテラルスラストの改善は必須です。
大腿四頭筋の中でも、内側広筋の出力不足は膝の動揺が増していくこととなります。
そのため、内側広筋の収縮性を促す機能訓練(タオルセッティング、キッキングなど)は治療初期から実施していくべきです。
軽度の炎症・疼痛においても無理のない範囲で行いましょう。
特に外側広筋優位となっている方が多いですから、なかなか収縮のイメージが沸かず訓練が進まない場合もあると思います。
その場合には電気鍼で内側広筋の収縮性を体験してもらうのも選択肢としてありかもしれません。
膝関節の伸展可動域制限の改善
ラテラルスラストの改善には膝関節の伸展可動域改善は特に重要です。
脛骨大腿関節においての伸展制限因子は下記の通りです。
- ハムストリングスの短縮
- 下腿三頭筋の短縮
- 大腿筋膜張筋の短縮
- 後方関節包の短縮
- 膝窩部伸張性低下
- 脛骨回旋不足
伸展制限因子がどこなのかを評価した上で優先順位をつけ、順番にマッサージや鍼灸で緩めていき十分なストレッチを行って可動域拡大を目指します。
変形性膝関節症(=大腿脛骨関節の変形)による疼痛は滑膜由来であることが多いと記載してきました。
しかし、実際には鵞足炎や半腱様筋、大腿筋膜張筋の過剰収縮などで疼痛が認められることもあるので、筋スパズムがあればアプローチしていくことも重要です。
症状は改善するのか
僕の経験則では、どういった負荷をかけたときに痛むのか、痛む組織はどこか、がしっかりと推測できていれば症状はよく改善している傾向にありました。
参考資料
順天堂大学医学部 整形外科学特任教授 黒澤 尚 解説
ひざ痛 変形性膝関節症 自力でよくなる!ひざの名医が教える最新1分体操大全
この書籍においてもひざ痛の99%は手術せずとも自分で改善できる!とうたっています。
患者さんやご家族向けの書籍でありますが、普段疑問に感じる点や、どのようにしたら膝の痛みがとれるのかを体系的にまとめてある良書ですので、施術者が説明するためとしても非常に有効に使えます。
気になった方はぜひお手にとってみてください。
また、より詳しく力学的ストレスを明確にしたり、フローチャート別に治療を行いたい場合には下記2冊がオススメです。
どちらも一度は読んでおいたほうが治療成績はグッと上がると思いますので、こちらもぜひ。
・運動機能障害の「なぜ?」がわかる評価戦略
・機能解剖学的にみた膝関節疾患に対する理学療法 (運動と医学の出版社の臨床家シリーズ)
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細部に至るまで詳細記述があるのが書籍です。
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