疾患別アプローチ

ALS(筋萎縮性側索硬化症)に対するアプローチ方法

ALS(指定難病2):筋萎縮性側索硬化症

amyotrophic lateral sclerosis/アミトロフィック ラテラール スクレローシス」

amyotrophic」とは、筋(myo)の栄養(trophy)が無(a)くなって、筋が萎縮(a-myo-trophy)するということ。

lateral」とは、脊髄の両側にある側索のことです。

この側索が硬化(sclerose)しているということになります。

・概要(どういう病気?どういう状態?)

筋萎縮性側索硬化症とは、手足、のど、舌の筋肉や呼吸に必要な筋肉がだんだん痩せていきく病気です。

筋肉そのものの病気ではなく、筋肉を動かす・運動を司る神経(運動ニューロン)が主に障害を受けます。

脳から「手足を動かせ」という命令が伝わらなくなることにより、力が弱くなり、筋肉が痩せていきます。

※体の感覚、視力や聴力、内臓機能などは全て保たれます。

進行性の病気であるため、症状が軽くなることはなく徐々に症状が重くなっていき、いずれ呼吸不全となって人工呼吸器が必要になります。

どのくらいいるの?

・人口10万人あたり2〜6人

・令和2年時点で特定医療費医療受給者証所持者だと10,514人

・徐々に増えている

・男性>女性(1.3〜1.5倍)やや男性に多い

・40〜60代に極めて緩徐に発症する

病気の原因は?

まだ不明なところが多いと言われている疾患の1つです。

病理学的に脊髄前角の大型神経細胞の脱落が著明であると言われています。

前根では大型有髄神経繊維の消失・萎縮がみられ、

側索は主に太い神経繊維が侵され、軸索も髄鞘も消失します。

他にも

・神経の老化との関連

・興奮性アミノ酸の代謝異常

・酸化ストレス

・タンパク質の分解障害

・ミトコンドリアの機能異常

などいろいろな要因が考えられるそうです。

※人種や国による違いもあるそうです。

遺伝する?

多くの場合遺伝しない 両親など血のつながった親族に同じ病気の人がいなければ遺伝の心配はないと言われています。

しかしALS全体の10%は家族内で発症することがわかっています

=家族性ALS

どのような症状?

ALSの初発症状は発症部位から4型に分類されます。

・上肢型:50% 字が書きにくい、箸がうまく使えない、腕が上げにくい 症状は母指球、小指球や骨間筋の筋萎縮、筋力低下

・下肢型:25% 歩きにくい、階段が昇りにくい、こむら返り      症状はつまづきやすさ、階段昇降時の疲れやすさ 

・球麻痺型:23% 飲み込みが悪くなる、言葉が話しにくくなる     症状はろれつ不良、食事のむせ

呼吸筋麻痺型:2% 手足の筋力低下よりも呼吸困難が先に現れる

※四肢の症状は通常1側遠位部から始まり両側性となります。

※私の担当している方は下肢→上肢→球麻痺という流れで進行されています。

下位運動ニューロン症状(脊髄前角症状)

四肢・体幹の筋力低下(弛緩性麻痺・筋萎縮・筋繊維束攣縮・深部腱反射低下)

上位運動ニューロン症状(錐体路徴候)

四肢・体幹は筋力低下(痙性麻痺)

腱反射亢進(ホフマン反射、バビンスキー反射)

症状が進行すると全身の随意筋萎縮、筋力低下のために、眼球運動を除いてほとんど自力では動かせなくなり、呼吸も困難になります。生命の危険となっていた呼吸筋麻痺や嚥下困難は、気管切開・呼吸器装着や経管栄養・胃ろう造設で長期療養が可能となってきているようです。

12対の脳神経では、延髄に運動神経核を持つ舌咽神経、舌下神経、迷走神経が障害されます。

・舌下神経:話す、飲み込む、ものを噛む 小さく僅かにピクピクする→繊維束性収縮

・舌咽神経:喉の筋肉を動かす 味覚・唾液に関係

・迷走神経:嚥下運動 声帯運動 耳介後方の感覚

※舌咽神経と迷走神経は同じ頭蓋骨から出ています。

細かい症状

・手指の使いにくさ、肘の曲げ伸ばしなど力が弱くなる。

・足の筋肉が痩せて動かせなくなる

・話しにくい、食べ物が飲み込みにくい

・呼吸の筋肉も含め全身の筋肉が痩せて力が入りにくくなり、身体を動かすことが難しくなる

・喉の筋肉に力が入らなくなると発音しにくい(構音障害)

・水や食べ物の飲み込みが難しい(嚥下障害)

・よだれや痰が増える

・呼吸筋が弱まると日常の動作でも息切れして、呼吸も十分に出来なくなる

※視力・聴力・体の感覚は何も問題なく、目やまぶたも動かせ、排尿・排便に必要な筋肉の症状は早期には出にくい

検査・診断

ALSは、手足の先の方の筋力が徐々に低下し動かし難くなり、それが他の部位にゆっくり拡大進行する場合に疑われます。これらは下位運動ニューロンの症状です。筋肉の表面が小さく痙攣するのも症状のひとつです。これは筋線維束攣縮といいます。さらに、手足だけでなく、しゃべりにくい、飲み込みにくいと云った、舌や口の中の筋肉の動かしにくさ(球症状といいます)が見られてくるとALSがかなり疑わしくなります。この場合、舌の表面がさざ波のように勝手に動いているのが見られます。これらの下位運動ニューロンの症状に加えて、神経内科医が診察し、手足の反射が正常よりも非常に出やすい状態になっている場合(上位運動ニューロンの障害があると現れるものです)は、ほぼALSと考えられます。つまり、臨床的に、下位と上位の運動ニューロンが障害されている可能性が高い場合にALSが強く考えられます。ただ、早い段階では部分的な症状だけですから、例えば片手の筋力低下のみというような場合は、診察だけでは診断は困難です。

ALSを特異的に診断するための検査法はありません。下位運動ニューロンの障害は、筋肉に細い針を刺して筋肉の電気的な活動を調べる筋電図(針筋電図)で証明できます。また、この検査では、明らかに筋力が低下してきていない筋肉においても、異常があるかどうかを調べることが可能です。ALSの場合は、症状が出ていない手足や舌の筋肉でも異常を認めますから、比較的早期で症状が強くない場合でも異常を検出することが可能です。

ALSの場合、筋電図以外に画像検査(X線検査・MRI検査など)や、電気生理学的検査(神経伝導検査・針筋電図など)、髄液検査などを行い、これらの結果から総合的に評価します。血液検査、場合によっては筋生検(筋肉の一部をとって組織を染色して調べます)などを行いますが、これらはいずれもALSと似た病気を除外するために行われます。

変形性頸椎症、脊髄空洞症、ミオパチー(筋肉自体の病気)など多くの病気の可能性を検討する必要があります。

ALSでは、血液中のCKという物質が多少増える方もいますが、一般的な血液検査や画像所見では明らかな異常が認められないことが特徴です。

また、各機能の障害の状態を確認するために、嚥下造影検査や呼吸機能検査、血液ガス検査も行われ、認知症の合併が疑われる場合には神経心理検査なども行われます。

治療法は?

治療薬としてリルゾールやエダラボンが使用されています。しかし、それらの治療薬を用いてもALSは根本的治療が難しい疾患であり、さらなる治療薬の開発が求められています。

ALS患者さん由来のiPS細胞を運動神経細胞へ分化させ、その細胞を用いて、既に他の疾患で治療薬として用いられている物質を含むさまざまな種類の化合物の中から運動神経細胞の細胞死を抑えることができる化合物、細胞死を防ぐ物質としてボスチニブ(販売名:ボシュリフ®錠)は、慢性骨髄性白血病の治療薬として用いられている既承認薬ですが、ALSを適応症として日本および世界各国で承認されていないそうです。

参考:日本医療研究開発機構

色々な問題

経済的問題

いろいろと費用がかかります。経済的な問題を解決もしくは軽減する方法として障害年金、特別障害者手当、傷病手当金、失業給付などの制度活用があります。各制度にはそれぞれに受給要件がありますので、受給するためにはその要件を満たす必要があります。病院のソーシャルワーカーに相談して一緒に考えてもらうことが多いそうです。

移動・介護

車椅子での家の中の移動を容易にするために、段差の解消や手すりの設置などどのような住環境整備を行うか、また住環境整備自体を行うかどうかを考える必要があります。費用は介護保険や身体障害者の制度で補助が受けられる場合があります。

病状が進行して、「食事を自分で摂ることが大変」「入浴の時に体を洗うことが大変」「自分で移動することが大変」などの状況になった時には、まずは家族が介護することになると思います。しかし「介護できる家族がいない」「家族の介護負担を軽減したい」「病状の管理に不安がある」などの場合は、介護保険制度によるホームヘルパーを利用したり、病状によっては訪問看護、往診医を依頼したりします。ホームヘルパーは食事、入浴、移動などの介助をするだけではなく、掃除や洗濯などの家事に関することをお願いすることもできます。訪問看護を定期的に利用すれば、健康状態を定期的にチェックしてもらえますし、相談にものってくれます。

コミュニケーション

お話をすることが、うまく出来なくなってきた場合は、まずは言語聴覚士の評価と指導を受けます。それでも言葉によるコミュニケーションが難しくなった場合には文字盤を使用してのコミュニケーションをとるようにします。文字盤で日常的な簡単で短いコミュニケーション(「はい、いいえ」「足が痛い」「テレビをみたい」など)を可能にします。しかし、文字盤で長く話をしたり、長い文章で意志を伝えたりするのは大変です。その場合はパソコンを使ってコミュニケーションをとれるようにします。パソコンには家庭用のものから意志伝達装置といわれる特殊なパソコンもあります。意志伝達装置は長い文書で自分の意志を伝えることを可能にします。また、テレビやエアコンのリモコン操作など環境制御も可能にします。

食事・嚥下

飲み込みが悪くなり、むせることが増えてきた場合には、言語聴覚士による嚥下(えんげ)の評価・指導を受け、食事の形態の工夫や嚥下方法の工夫などを行います。さらに病状が進行し、経口での食事摂取が難しくなった場合、胃瘻(いろう)を造設することをお勧めします。胃瘻(いろう)とは腹部の外側から直接胃に細い管を通し、流動食などを入れるための通路です。胃瘻を造設する際には入院が必要になります。入院は、胃瘻造設の手術と流動食の導入も含めて、約1ヶ月が必要となります。これは胃瘻の手術による影響で腸管の動きが悪くなったり、腹膜炎を起こしたりしないように経過を観察する期間と、流動食に徐々に慣れていただくための期間が必要だからです。胃瘻造設時の注意点は、造設後に呼吸状態が急に悪化することがあるため、呼吸状態があまり悪くならないうちに手術を行う必要があります。また、手術は栄養状態もあまり悪くならない前に行った方がいいそうです。

吸引について

多くの患者さんは嚥下障害が出始めたころから口腔内の吸引が必要になってきます。吸引には口腔内のみの場合と気管内まで必要な場合があります。しかし、病状が進行すると気管内まで吸引が必要になります。口腔内吸引は、口腔内に唾液が溜まり、誤って気管の方に飲み込んでしまわないように、口の中の唾液を吸ってもらいます。

吸引行為を行えるのは、法律上、原則は医師や看護師等の医療従事者の一部と家族でホームヘルパーは一定の条件を満たせば、在宅において吸引行為を行うことができるようになるそうですが、現実的には在宅では家族が行うことになります。そのためご家族は吸引の方法や技術を習得する必要があります。

人工呼吸器を装着すると決めた場合には、呼吸状態を観察しながら、気管に穴を開けて、カニューレという管を入れる手術(気管切開)の後、人工呼吸器を装着します。人工呼吸器装着後は、患者さんご自身が人工呼吸器になれていただくとともに、在宅療養に備えて、ご家族に様々なことを覚えていただきます。簡単な人工呼吸器のメカニズム、トラブルの対処法などに加えて、気管切開に伴い、気管内吸引の方法や気管カニューレの処置などについて、医師や看護師から指導を受けていただくことになります。この期間はおよそ1ヶ月程度が必要です。

(この病気に対する)症状に対してどうアプローチするか

 マッサージ

上肢・下肢の筋力低下が起こるため、自分で関節を動かすことが難しくなっていきますので、筋肉の柔軟性を出すため、関節周囲の血液循環を促すためにマッサージ・関節可動域運動・ストレッチを行なっていきます。

・両上下肢マッサージ

・側臥位にて頸肩、肩甲骨周囲、腰部、臀部のマッサージ

・仰臥位にて顔・頭部のマッサージ

 鍼灸

鼻の通りや喉の違和感、下肢の浮腫、首の付け根の痛み、肩甲骨周囲の筋緊張、

頭部、上星、迎香、印堂、鼻通、合谷、列缺、尺沢、足三里、三陰交、天柱、風池

※置き鍼(鍼なし)も有効に使うと効果が出やすいと個人的には思います。天突に使っています。

 機能訓練

関節可動域運動やストレッチも行っていますが、やりすぎると体に負担がかかってしまい余計動きが悪くなり、疲れてしまう問題が出てきます。(過用性筋力低下)ご本人の体調・様子を見ながら行い、翌日の疲労が出たかを聞きながら行なっていくのが1番かと思います。

例)肩関節の屈曲運動10回→疲れ出た→現在は5回ほど(個人差があるので聞きながら)

ALSには・・・チームでアプローチ

・看護師は点滴、呼吸管理、喀痰吸引などの医療的ケア

・ケアマネージャーは制度利用の視点から患者・家族を医療や福祉の制度につなげる役割

・福祉用具専門相談員は病状の進行に伴って必要となる福祉用具を提供

・理学療法士は運動や歩行、姿勢やバランスの障害などに対する介入により身体的な機能の維持

・作業療法士は身体機能の評価に基づく住環境整備や自助具作製、各種福祉用具やコミュニケーションエイドの適合評価、スイッチ作製、

・ヘルパーは食事介助、入浴介助、食事調理、買い物代行

・鍼灸マッサージ師はマッサージ、関節可動域運動、疼痛緩和、血流促進治療

ALSは進行性の難病なので治る・良くなる病気ではないです。

1回1回の施術中で動きやすくなった、鼻の通りが良くなったという効果はありますが、少しずつ動けていた部位が動かせなくなり、出来ていたことが出来なくなります。

1ヶ月毎だったのが、急に1週間毎、かと思っていたら2、3日で一気に出来なくなる・・・

と進行のスピードもその人それぞれによって違います。

ゆっくり進行する方もいれば2、3ヶ月であっという間にお話が出来なくなってしまう方もいます。

そして、どんどん色々な問題に直面していき、体力的にも精神的にもつらい病気です。

対症療法にはなりますが、

【その日気になる症状を緩和する、患者さんが満足できることに応える】

私はそのように治療しています。

治療後の食事が自分の手で食事を摂ることが出来た、夜よく眠れた、足がぽかぽかする、肩甲骨の凝った気持ち悪さが取れた

その時に気持ちいい、体や気分をリラックスする、楽にさせられる仕事だと思います。

患者さんは毎日すごく恐怖心と闘っていらっしゃると思います。

少しずつ動けなくなり、話しづらくなり、最後は声が出なくなり、呼吸ができなくなる・・・

薬や手術で治ることはなく、何をしても症状は進行していく。

施術後に楽になってもらうのを目標に寄り添い、少しでもその方の役に立てるように毎回施術しています。

この記事を書いた人

とらこ
・鍼灸マッサージ師
(3児の母 2023年にトライアスロンに挑戦したアラフォー)