ここでは腰部椎間関節性疼痛について解説したいと思います。
胸腰部の構造
胸腰部の脊柱は、次の2つで連結されています。
- 椎骨の下関節突起と上関節突起で形成される椎間関節
- 椎間板を含む椎体間の関節
①の椎間関節は関節軟骨や滑膜、関節包を有しています。
対して②については線維軟骨の結合による機能的な関節のため、正式な関節名称はありません。
また、胸椎においては肋骨頭関節と肋横突関節があり、両方合わせて肋椎関節と呼びます。
胸腰部に生じやすい機能障害とは
胸腰部に求められている機能には次のものがあります。
- 脊髄神経を保護すること
- 3軸性の大きな可動性を可能とすること
これらの相反する役割を担う以上、椎体の文節的な安定性が必要です。
ですが、骨と靭帯のみでは十分な安定性が得られないため、胸腰部における筋・筋膜の存在が非常に重要となります。
- 長時間のデスクワーク
- 重量物を扱う仕事(介護も含む)に従事している
現代人は特にデスクワークが増加している傾向にあります。
小学生からパソコンを扱う授業があるため、より長期化する不良姿勢の問題も今後増加することでしょう。
このように、継続的な不良姿勢や脊椎のアライメント不良、椎間関節や椎間板の変性によって疼痛発生となっていきます。
静的・動的安定性
静的(止まっているとき)、動的(動いているとき)の2つにおいて安定性が求められます。
それぞれ次のとおりです。
- 骨の形状
- 椎間板
- 関節包
- 靭帯
これらが椎体の安定性に寄与し、椎体の前方滑りや体重支持、脊柱全体の安定性に貢献しています。
- 固有背筋内側群:長回旋筋、単回旋筋、多裂筋、半棘筋
- 腰方形筋
腰方形筋の起始は腸骨稜からTh12、L1〜4の肋骨突起に停止します。この左右からの腰方形筋の収縮で腰椎が固定されるため安定性に貢献します。
胸腰部で考えるべきストレスは3つ
胸腰部の痛みを力学的なストレスから考えますと、次の3つに分けられます。
- 伸張ストレス:主に筋・筋膜性疼痛
- 圧縮ストレス:主に椎間関節疼痛
- 剪断ストレス:主に仙腸関節疼痛
※主にと書いたのは、それだけで判断はできないためです。
今回は椎間関節性疼痛に関係が深い「圧縮ストレス」から考えてみます。
圧縮ストレスとは
通常、立位姿勢時は椎間関節に20%、椎体・椎間板に80%の荷重がかかっています。
当然この荷重については姿勢状態によって変化していきます。
これらのことから、圧縮ストレスによって疼痛がみられる場合は椎間関節・椎間板の損傷を疑います。
鑑別
腰部椎間関節性疼痛を見分ける簡単な方法には次の2つがあります。
- 腰椎伸展動作
- 腰椎伸展+回旋動作
圧縮ストレスでも述べたとおり、脊椎伸展時においては椎間関節にストレスがかかります。
また、伸展+回旋動作ではより強力にストレスがかかるため疼痛の有無が分かります。
どの部分に疼痛があるかを判断するには2つ検査を行います。
- 指差し指示
「痛い場所を人差し指で触ってください」と伝えると、患者さんは「ここ」とワンポイントで示すことができます。
これは炎症部位が限局されているためです。
- 側臥位で触診圧迫
側臥位で脊柱起立筋の緊張を抜いた状態にします。
先程指差ししてもらった部分を目安に、椎間関節を指で圧迫していきます。このときに圧痛を訴えるようでしたら、その椎間関節レベルの組織周囲に炎症があると予想できます。
椎間関節は棘突起より1〜2横指外側にあり、圧迫しながら上に移動させると乳頭突起が触れられ、その内側を探ると椎間関節です。
椎間関節のどの部分に痛みがあるか
椎間関節を構成する骨部分や関節軟骨には痛覚受容器は存在しないため、痛みを感じることはありません。
実際に疼痛部位となっているのは以下の3つが考えられます。
- 関節包
- 脂肪組織
- 筋肉
脊椎伸展時において、多裂筋の機能不全によって関節包を後方に引く力が弱くなると、正常な伸展動作から逸脱して関節包や脂肪体を挟み込む(インピンジメント)ため繰り返しのストレスとなり疼痛に繋がりやすくなります。
または、骨盤の前傾が強くなったり(腸腰筋の短縮や股関節伸展筋の筋力低下など)、体幹屈筋群の弱化により腰椎伸展増強が強いためストレスが普段からかかりやすくなっているケースもあります。
予後
腰部椎間関節性疼痛が原因で寝たきりになったり、致命的な怪我に繋がることは少ないと思われます。
しかし、高齢者において何らかの疾患や環境で低意欲化が目立つ場合などでは、この疼痛は十分に活動を抵抗する理由になることもあります。
実際、リハビリ後の疼痛感増強や、疼痛感の残存が長期に渡ってみられるとリハビリに対して否定的になり、マッサージ治療のみを希望されるケースもみられます。
ここはマッサージ側から疼痛を素早く取り除き、リハビリや生活活動に対して否定的にならないような環境づくりが必須となります。
腰部椎間関節性疼痛はあくまでも歩ける・立位姿勢が取れる方にみられる症状ですので寝たきりになった場合には治療優先順位は低くなるかもしれません。
症状に対してどうアプローチするか
大きく分けて次の5つを考えてみましょう。
- 腰椎の屈曲可動域拡大
- 胸椎の伸展可動域拡大
- 体幹屈筋群の筋力強化
- 股関節伸展筋群の筋力強化
- 疼痛誘発動作の修正
マッサージ・ストレッチ・鍼灸・機能訓練
予測される姿勢や過緊張部位・弱化部位は次のとおりです。
《予測姿勢や過緊張部位》
- 頸部伸展(頸部伸筋群)
- 胸椎後弯(大胸筋や小胸筋)
- 腰椎前弯(腰部脊柱起立筋群)
- 腰仙角増大(腰部脊柱起立筋群)
- 股関節・膝関節の軽度屈曲(腸腰筋、大腿筋膜張筋)
《弱化部位》
- 頸部屈筋群
- 僧帽筋中部・下部線維
- 胸部脊柱起立筋群、菱形筋
- 腹筋群
- 大殿筋、ハムストリングス
マッサージ
まず疼痛部位を触ってあげることが患者満足度の向上に必要と思います。
なぜなら患者自身は「痛い部位を触ってくれない」という認識になるためです。
訪問業務で対象とする方は高齢者層が多いため、疼痛も容易に改善することも少ないと思われます。
そのため、早期離脱となって治療機会自体の損失とならないことも念頭にいれるべきです。
また、いきなり全ての問題部位にアプローチできるほど時間的余裕も許されていないことが多いので、期間と治療部位を決めつつアプローチすることが結局は有効に思います。
ストレッチ
股関節や膝関節の短縮改善に向けて実施していくこととなりますが、介入頻度が少ない場合は十分な効果が望めません。
また、自身でできるストレッチがあればやり方を教えて日々本人に実践してもらいましょう。
これは患者教育においても非常に重要で、「疼痛改善のための治療を受けている」というスタンスから「一緒に疼痛改善のために治療をしている」というスタンスへ変えることができるため離脱防止に役だったり、早期疼痛緩和に繋がります。
関節可動域運動
他動が主となると思います。
そもそも正常可動域まで胸椎・腰椎が可動するのか?
正常可動域まで股関節伸展はとれるのか?
このあたりを評価してから計画をたてましょう。
もしも股関節屈曲位で拘縮しているのだとしたら、いくら疼痛部位の緊張を取り除いても必ず時間経過とともに増悪します。
なぜなら不良姿勢自体が改善していないため、常に椎間関節へのストレスがかかるためです。
また、腰椎の伸展・屈曲を行い脂肪体の緩みをつくることも重要です。
鍼灸
得意とする疾患のひとつです。
疼痛部位が比較的明確になるのが腰部椎間関節性疼痛ですから、問題となっている椎間関節へ向けて刺鍼をしていきます。
その際、緊張が予測される腰方形筋や脊柱起立筋群を大きく捉えて治療することも有効です。
機能訓練
機能訓練は行うべきですが、必要性を理解させることが大切です。
痛みがあるから鍼灸マッサージ師が介入する流れとなっているはずですよね。
そんな中で「機能訓練をやりましょう」といっても、「いや、痛い部分を揉んで欲しい」となってしまいます。
まず、疼痛部位を特定し、マッサージや鍼灸でアプローチをしつつ、「なぜ痛みがあるのか?続いているのか?治るのか?」を詳しく理解させてから行うべきです。
動作の修正においては、日々の立ち上がり姿勢をチェックしましょう。
足腰に力が入らないため、上肢帯に荷重をかけながら立ち上がる人は意外と多いものです。
そのため腰椎に伸展過負荷がかかる動作となるケースがあります。
その場合は、必ず顎を引き目線を足元のしながら起立することで伸展過負荷を抑えることができます。
腰部椎間関節性疼痛だけではADLに大きな問題を抱えるケースが少ないため、この症状単体ではあまり声はかからないと思います。
ですが、他の主疾患に隠れて疼痛を感じているケースはあるため、訴えがあるようでしたら改善に向けてアプローチを行っていきましょう。
あまりに長い期間疼痛を訴えている利用者さんの場合、ケアマネさんももう治らないだろう。と諦めていることもありますが、その際にはきっちり説明していくことが必要です。
参考資料
- 脊椎のスポーツリハビリテーション
- 脊柱疾患のリハビリテーションの科学的基礎
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細部に至るまで詳細記述があるのが書籍です。
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